2025年5月のFOMC後に行われたパウエルFRB議長の記者会見は、マーケットの不確実性を浮き彫りにする内容となりました。
米中関係の緊張、相次ぐ関税引き上げ、そしてインフレの再加速リスク。これらを前に、FRBはどのようなスタンスを取るのか──。
本記事では、記者会見の要点をもとに、今後の金融政策の方向性とその背景にあるパウエル議長の本音を読み解きます。
◎経済見通し:成長減速の兆しも、民間需要は堅調
パウエル議長は冒頭、GDPの伸び鈍化を認めつつも、「民間国内最終需要(PDFP)は依然として堅調」との見方を示しました。
- 2024年のGDP成長率:2.5%
- 2025年Q1:成長鈍化(主に輸出の変動要因)
- 民間需要(PDFP):+3.0%、昨年水準を維持
- 労働市場:バランスが取れた状態、最大雇用の水準と一致
表面的な数字の鈍化とは裏腹に、内需は底堅さを見せており、経済全体の耐久性はまだ健在。
◎インフレ:やや高止まり、関税が物価を揺さぶるリスク
インフレ率は2%目標をやや上回る水準で推移しており、関税の影響が懸念されています。
- PCE総合:+2.3%(前年同月比)
- コアPCE:+2.6%
- インフレ期待:短期的には上昇傾向
- 市場の不安材料:関税の影響が不透明で、価格への波及が懸念される
「一時的か、持続的か」が政策決定の分岐点。パウエル氏は「価格上昇が一時的に終わる保証はない」と述べ、粘着性のあるインフレへの懸念をにじませました。
◎関税ショック:想定を超える規模と市場への波紋
4月2日に発表された新関税は、市場予想を大きく上回る内容で、パウエル議長も「状況が一変した」と発言しています。
- 大規模な関税引き上げ:最大145%
- 市場の反応:不確実性の高まり
- インフレ圧力・失業率の上昇リスクあり
- 経済成長の鈍化懸念
「経済見通しを大きく揺るがす要因」として、関税=金融政策のボラティリティ要因として明確に認識されています。
◎利下げはあるのか?「現時点で急ぐ理由はない」
記者会見の核心は、「利下げの可能性」に対するパウエル議長のスタンスでした。議長の回答は一貫して慎重なものでした。
「政策金利は適切な位置にある。現時点では急ぐ必要はない」
「状況が展開して方向性が明らかになるまでは、忍耐強く待つのが最善」
- 3月のFOMC時点では年内2回の利下げ予測
- 5月会合ではSEP(経済予測要約)は非公表
- 利下げ・現状維持・利上げのいずれも「オープンな選択肢」
FRBは**「様子見モード」に再突入**。利下げを急ぐ構えはなく、今後のデータ重視の姿勢が強調されました。
◎質疑応答:FOMC議長の“本音”を読み解く
以下は記者とのやりとりから見えてきた「真意」のまとめです。
Q. 関税と雇用・インフレ、どちらを優先?
「どちらもリスクが高まっている。どちらに傾くかは今後のデータ次第」
→ 利下げも利上げも“全てが選択肢”。FRBは判断を保留中。
Q. リセッション(景気後退)の可能性は?
「関税の不確実性が高く、影響が明確に見えるまで予防的には動けない」
→ 今は2019年と違い、予防的利下げをする余地はないとの見解。
Q. トランプ大統領の利下げ圧力の影響は?
「私たちは政治的要因を一切考慮しない」
→ 明言による独立性の強調。Fedの信頼維持に注力。
Q. 市場の悲観とセンチメント悪化は反映すべき?
「センチメントは見ているが、ハードデータにはまだ現れていない」
→「バイブセッション(雰囲気的景気後退)」に冷静な立場を保ちつつも注視。
Q. インフレ高進と雇用悪化、どちらを優先?
「どちらかが大きく乖離していれば、そちらを重視する。今はまだ判断できない」
→ 現時点ではトレードオフに対する優先順位は未定。
◎まとめ:Fedの「慎重な静観」と投資家の視点
今回のFOMCとパウエル発言から読み取れるのは、FRBが**「忍耐」と「柔軟性」の両立を模索している局面**であるということです。
- データを重視しつつ、政策スタンスはフルオープン
- 利下げは「時期尚早」、利上げも「可能性排除せず」
- 不確実性が極めて高く、関税動向がカギを握る
“悪材料には反応しすぎず、良材料にも飛びつかない”──今は市場参加者にとっても「待つ技術」が試される時期かもしれません。